高校 国語総合 【羅生門】人間とはどんな存在であるかを考える
大妻中野中学校・高等学校 杉田章修
授業案について
私は毎年、ガイダンスの授業で生徒に「国語の授業では、文章を読んでいるけれど、何のために文章を読むのでしょうか。」と聞いています。
話し合わせると生徒は、「そういえば、なんで?」「わからない」という言葉を交わすわけですが、私は以前お世話になった先輩教員の言葉を借りて、「これからの社会を形作るために」と伝えています。
今回ご紹介する授業案は、生徒が社会を形作る「人」の在り方について考え、自身を見つめるための小説の読解の第一回として「善」「悪」というテーマで「下人」を分析し、考え方の基礎を作ります。
シンキングツール使用のポイント!
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文章で気になったポイントを可視化し、考える契機にしたり、シンキングツールの切り替えを用いて、整理をしたりする(収束する)点に絞って活用します。
特に、展開1のベン図でのリストアップと整理から展開2での精査、ピラミッドチャートでの順序付けでは、本文を読む中で拡散した思考を収束することを意識させます。
導入でのシンキングツールの選択は、その後の生徒の動きに大きな影響が出るので、生徒の様子などに応じて、PMT/KWLではなく、キャンディ・チャートやバタフライ・チャートを活用してもよいかもしれません。
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シンキングツールを使用するときに最も重要なのは、「目的に沿ったものを用いて、生徒の思考を手助けできているかどうか」です。「シンキングツール(思考ツール)授業案/ttld」では、様々な校種・教科の先生が多種多様な案を作成・公開してくださっています。 ぜひ、“いいどこ取り”をして、素敵な授業を実現してください。
題材についてのポイント
夏目漱石の弟子として知られる芥川龍之介によって書かれた名著「羅生門」に多種多様な情景描写、作中に「作者」が登場するという特異な表現とともに描かれた人間の「心」を端的に「羅生門に上がる前」と「羅生門から去るとき」の比較から読解し、「善悪」として収束させます。
この作品での読解を通して、表現の読み取り方などの読解の議論、主題としての人の姿についての議論を始める手立てを生徒の中に作ることが目的です。
授業の展開
単元計画
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1.アイスブレーク
アイスブレークでは生徒の中にある「漠然とした正義感」「悪意」の視点を明確にして一人ひとりの見方・考え方の違いを明らかにします。意見を対立させて、「何が正義(悪)であるか」がわからないと感じさせることができればGoodです。
活動の中では、善・悪の結果を戦わせることではなく「理由」を挙げさせて、その判断が一概にできないことを視覚化することで思考をスマートにします。
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ここでベン図を利用するのは、話しやすいテーマで拡散させるよりも、「善」「悪」というカテゴリに収束させようとする中で「グレーゾーン」があることや自らとは違う視点で見たときに「善」だと思っていたものが「悪」ともとらえうることを認識させる意図があります。
2.導入
導入では、本文のなかで気になる「下人の様子」を付箋化しながら、物語のはじめと終わりで下人が「善」であるか「悪」であるかを選択させます。
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選択したものはPMT/KWLを用いて、ものがたりの展開(序論・本論・結論/はじめ・中・終わり)にあてはめ、下人の変化を考えます。(そのために、あえてPMT/KWLの真ん中の枠は空白になるようにしています。生徒の頭の中も「なにが原因で変化したんだ!下人!!」となっていると思うので、生徒の思考に合わせましょう。「埋められないところ=わからないところは、活動の中で埋める=わかるようにする。」ということに慣れさせます。)
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3.展開(1)
展開部では、2段階に分けて「変化の原因」を探ります。展開(1)では、原因として考えられる材料を本文から探し、どの表現を使うのかをベン図を用いて選択させます。
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この時、客観的な情報と主観的な情報に分類するのは、根拠にする材料がどちらかに偏らないようにするためです。この活動でもグループワークをして意見交換をしてもいいかもしれません。
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4.展開(2)
展開(2)では、展開(1)でベン図を用いて整理・選択をした表現を用いて、下人の変化を考えます。本文を読みながら考えるため、根拠となる表現がまた広がっていきますから、生徒が思考しながら説明をするのに重要かどうか、下人にとって、何がきっかけでどのように変化したのか(eg 「きっと、そうか」では何を理解したのかなど)にについて、考えをまとめる。
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まとめ・発展
まとめとして、目標にあった「人の姿」について、本作のテーマの一つである「善」「悪」を柱に考えをまとめる。この活動の
中では、あえてシンキングツールを限定することはせず、生徒が自分の考えを表現しやすい形で表現することを重視する。
結びに
新しい指導要領では、文学作品が軽視されているという声もありますが、複数の評論文や小説を「考えるための材料」として活用することで、その問題意識は杞憂に変えられると思います。(この考え方だと、今回の羅生門も単元の中の一つという認識に変化するわけですが、、、)
そのための形式をシンキングツールで揃えていく。あるいは、一つのシンキングツールに収斂させていくという方法でシンキングツールは皆さんの授業の支えになってくれます。
ぜひ、「とりあえず、使ってみる」から初めてみてください。